ドキドキハラハラ(かざみどりSS含む)
Twitterの方でサラっとお知らせを流しましたが、「風物語 ~かざみどり~」の本編をいよいよ公開させていただきます。
実はアパラチナの設定時、朝日の過去の中で「朝日が追っている事件の犯人の身内との間に子供宿した」っていう設定がありました。
その設定を柱にたくさんの枝を生やしてかざみどりという作品が出来上がりました。
公認会計士試験の受験が本当に苦しくて、辛くて悲しい時に気晴らしに積み上げた大切な作品です。うまくWindとアパラチナの間を繋げられたら良いですがね。
……内容は正直に言うと、他の風物語シリーズと比べて人を選ぶ作品だと自覚しています。
寧ろ載せる方が罪じゃないのかと、何度も公開を躊躇ったものです。
それでも公開しようと踏み切れたのは、「風物語」という作品は鳴海穗の脳みそでしか生みだせないし、私の宝だから。
また、少しずつ朝日と凪の話を周囲の皆に話したときに「二人の行く末が見たい」というお声を頂戴したことも公開しようという意欲に変わりました。
結局私も一人の人間なので、他者の感想や意見が活動状況に影響してきてしまう。
たとえ検閲とかに引っかかったとしてもこうやって頑張れるのは今だけだから。
誰の心に響かなくても綴れる機会を逃さないようにしていこうと思います。
……直接お話をさせていただいた方とかにはお伝えしたかと思いますが、かざみどりは成人向け指定で、大人の行為もはいります。第1話目からハードだと思います。
もしそれでも行く末を見守りたい……という場合は、どうか、心を強くもって、そして朝日と凪の二人を温かい目で応援していただけると嬉しいです。
恋愛については風物語の主人公たちの中では珍しく超両想いだし、お互い気持ちをストレートに言うし、激甘のラブラブなのでそこで中和出来たらいいな!!
ある意味見物なのは“余裕の無い朝日”です。
◆
定時で帰れるなんてありえない。国内どころか王の代わりに西の国へ赴くことが増えた自分に休みは殆どとれなかった。
万年人手不足な職場の為、休みの日は極力仕事から離れたかった。
家は詰まれた書類や事案を隔てることができる空間だ。
小さな住宅街に並ぶごく普通の一軒家。ベルトループに釣り下がる貰い物のキーケースから複雑な模様を刻む鍵を取り出す。いつものように銀の鍵穴へ差し込み、手首を捻ればガチャリと音を立てて解錠する。
ダッ、ダッ、ダッ、ダッ。ダッ、ダッ、ダッ、ダッ。
聞きなれた子供の足音。駆け足でこちらに向かってくる。
元気だなと微笑みながら俺は玄関の戸を開けた。
「おかえりなさい!」
子供の時の自分にそっくりな男の子がリビングに繋がる通路からひょっこりと顔を覗かせる。
玄関までに届く牛肉とデミグラスソースの香りにつられ腹の音が思わず鳴ってしまう。今日はハンバーグか。
まだ幼い我が子の頭を優しく撫でると、嫁がエプロン姿で迎えてきた。
「おかえりなさい」
「ん、ただいま」
二週間ぶりに出会えた嫁と息子。蓄積された疲労は徐々に薄れていく。
一番風呂をいただきながら食卓の準備が整うまで待つ。自宅にいるときにはいつも俺が調理をするが、たまには私がやりたいと張り切る嫁が俺の帰りを待ちながら夕食の準備を進めていたそうだ。
皿の上に盛り付けられるハンバーグはよく見ると一人ひとり大きさが違っている。どうやら息子が成形したようだ。お母さんのお手伝いをしていて偉い。野菜を切るところから頑張ったそうだ。
皿を片付けたあと、息子は先に夢の中へ入り込む。昔からよく寝る子だ。お陰で“二人だけの時間”を共有することができる。
イドリア製のフカフカのソファーに並んで腰かける。嫁がそっとシャンパンを取り出し、二人分のグラスの中へ静かに注いだ。
乾杯。新鮮さと熟成感が口の中で広がる。果実の濃厚さと独特な深みが喉を潤す。
「また一段と綺麗になったな」
グラスを持たぬ手を嫁の頬に手を添えながら言えば、彼女ほ頬は紅みを増していく。結婚してからより色気づいたと思う。そんなことを言ったら照れ屋な彼女は恥ずかしがって顔も見せてくれなくなるだろう。
ベランダに繋がる窓の隙間から春の夜風が入り込む。ほんのりと甘い桜の薫りが鼻をくすぐる。
「あ、あの……朝日?」
「ん?」
「いつもありがとう」
突然のお礼の言葉。なんだろう急に。
「私、本当に幸せです。安定した平凡な暮らしができるなんて思っていなかったし、大好きなアナタにこんなにも大切にしてもらって胸がいっぱいなの。子供にも恵まれて、幸せ過ぎてどうしようってなるの」
「……凪」
「私の力じゃアナタを支えるには物足りないと思うけど、できることは一所懸命やるから。……これは私の我儘なんだけど、これからもアナタと一緒に幸せを共有させてください」
彼女は身を乗り出し、ユックリとした動きの中で俺の頬に柔らかくぷっくりした唇でキスする。俺の体の中で熱がこみ上げる。
彼女の持つシャンパンのグラスを取り上げ、そのままソファーの上に押し倒す。戸惑う彼女の上に覆いかぶさりながら、もうどこにも行かせまいと腕の中に閉じ込めた。熱は下半身に集まっていく。
「……二人目、つくろうか」
二人にしか聞こえない程の小さな声でそう伝えれば、耳まで赤くなる。一つ一つの反応が可愛くて仕方がない。
「……はい」
目尻をトロンとさせながらも彼の想いに今日も応えるのであった。
朝の陽ざしが窓から差し込みユックリと瞼を開ける。
ここは里見の執務室。どうやらうたた寝をしてしまったようだ。積み重ねた書類の山<現実>を見て思わず大きな溜息が出てしまった。
「夢か……」
暖かな家族の夢だ。自分は穂のように予知夢を見らるわけでは無い為、この夢が確実なものになるとは言えない。それでも……。
ーーああなると良いな。
先日貰った組みひものブレスレットに思わず手を添え、愛する彼女の顔を思い浮かべるのであった。
◆
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