覚書

 ーーやりすぎちまったかな……。
 家を出る前、今一度声をかけるが凪は眠りから覚めなかった。規則正しく心地よい寝息を立てている。
 連絡もまともに取れず、二週間も家を空けてしまった。玄関先で朝日を迎えた彼女はどこかもの寂しげで、ヨレたシャツを控えめに摘まんだ。我慢の糸は瞬く間に切れてしまい、結局のところ四度も求めてしまった事実に自嘲する。
 広めの額に口づけする。艶のある柔らかな黒髪を撫でその場を後にした。
「朝日……首の後ろ、なんかあるぜ……」
 努は目を泳がせなから告げる。朝から部下たちがどこかよそよそしく感じていた。自信過剰な努の為に買った全身鏡に背を向ける。
「あっ!?」
 髪を切る間になぜ気付くことができなかったのか。控えめに小さな内出血がうなじ側に一つ華を咲かせている。
 ーーいつの間にこういうこと覚えたんだぞ!?

「キスマークって本当にあんだな……」
 ボソリと呟く努は、親友の同棲生活に羨む気持ちを隠せなかった。