覚書。
朝に投げたブログ記事とは違ってメモです。
(ブログが一番遡りやすいことが分かったし、見ている方も限られているし!)
心を空っぽにして六花から受け取ったヘアピンを穴に刺す。何度もイメージトレーニングをした通り、右に数回、左に数回、また右に数回ピンの先を奥の方をかき混ぜる。乾いた解錠音と共に枷は手首から離れる。
足も支持されたとおりに穴の奥をかき混ぜ、同様に外れる。
借金は完済し、思い残すことはもう何も無い。彼から貰ったもの、預かったものは全て引き出しの中にしまい込む。
今、着ているものだけはいただきます。何も着るものが無ければそれこそ捕まってしまうから。
自由を取り戻した隷代はコッソリと裏口から抜け出す。痕跡を残さないように使い捨ての薄紙で指紋を付かないように十分に配慮した脱出。
神子の力を取り戻しているため、言魂の流れでヒトの気配は容易に感じとれるようになっている。こっちは大丈夫と信じ、何も持たず素足のまま抜け出していく。
ーーわら半紙に優しい字で書かれた彼女の文はクシャりと音を立てながら握る。天地創造の言葉は複雑で、中には風導士でも読めない文字があった。
この男は違う。現王と同じ勉強をしていたこと。雇い主として彼女の日報を毎日確認することを日課としていたため、読めない言葉を数える方が少なくなっていた。
「馬鹿野郎っ!」
こみ上げる怒り。それは彼女に対してではない。好意を寄せていること、大事にしていること、一人の女性として愛していることを伝えなかった自身に向けたものだ。
回答送る前に何か言われれば、そちらを信じる可能性が高い。ここは最も華やかで下町に比べれば治安もいい方だが、階級が上の者が発すれば嘘の情報がたちまち広がる世界だ。
遠くの方でゴロゴロと音が鳴り始める。賢二に留守を頼み、税を連れて家を離れる。
犯人を追うほどの速さで先ずは王都内を探す。どこかに隠れていればいいが。
「主! 雨が降ります! 武官に依頼して彼女を探させれば!」
「それは無理だぞ。武官の中に九条の息がかかったやつがいたら、何が起こるかわからねぇ」
上空は雨雲に覆われ、稲妻の柱が二人の目に留まる。
「……雷で良かったな」
どこかに隠れていてほしい。そう願いながら二人は王都の外へ飛び出した。
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